Saturday, October 17, 2020

Sunday, July 19, 2020

The Prince Hakone Lake Ashinoko, Togo Murano




平日だったから異様に静かだった。霧雨が降ったり止んだりしていた。
どこまでが計算ずくなのか、その場所を構成する造形の一つ一つが妙にシュールレアリスティックで、
そこにいると時間の感覚が希薄になるような、夢のなかの景色を見ているような気がした。
軟体動物みたいなバルコニーのある、双子みたいな全く同じ二つの建物、
奇妙に群れる杉の高い木立、薄いカーテン、紫陽花のしげみ、
それから静かな湖面を一瞬だけ乱したあの大きな水しぶき。……
しかも地面が少し傾斜しているから、建物を正面から撮ろうとするとほんの少しだけ歪んでしまう。
そんなことも含めて彼岸と此岸のあいだみたいな、もうここから帰れないんじゃないか、むしろあんなホテルはなかったんじゃないか…… 戻ってきて思い返すと不思議にそんな感じがしてくる。

Friday, May 15, 2020

A Passing Glimpse







一瞥

ロバート・リー・フロスト




リッジリー・トレランスに捧ぐ
彼の記した“ヘスペリデス”を最後に読んで


車から 花が咲いているのが 見える
通り過ぎてしまう 何の花か 分かる前に


電車を飛び出して 戻りたいと思う
線路脇のそれは 何だったのか 


全ての花に名前をつけよう まだきっとそれをもたないものに
野焼きの跡に 一斉に吹き出す  ヤナギランではなく 


トンネルの入口を彩る ブルーベルではなく
砂と日照りに生きる ルピナスではなく


何かが さっと 私の心を かすめた
きっと地上の誰も 見つけられないものを?


天は かすかな 一瞥を なげかける 
見過ごされている ものたちだけに





A Passing Glimpse

By Robert Lee Frost



To Ridgely Torrence
On Last Looking into His 'Hesperides'


I often see flowers from a passing car
That are gone before I can tell what they are.

I want to get out of the train and go back
To see what they were beside the track.

I name all the flowers I am sure they weren't;
Not fireweed loving where woods have burnt,

Not bluebells gracing a tunnel mouth,
Not lupine living on sand and drouth.

Was something brushed across my mind
That no one on earth will ever find?

Heaven gives it glimpses only to those
Not in position to look too close.